カキのイカ変化

子どもの誕生日が近いので、池袋まで出向き、プレゼントを物色する。パルコ、西武百貨店、パルコ別館をうろうろ。なかなかいいものが見つからない。


お昼を食べるため、食堂に入り、スペシャル・ミックスフライ定食を注文したのである。


普段あまり外食せず、また影の薄い店主は、こういう店で、よく店員に忘れられたりする。今日はどうかなあ。自分より後からきた客にどんどん運ばれるのを横目で見ながら、そんな心配がよぎる。


はたして、スペシャルミックスフライ定食は、目の前に運ばれたのであるが、品書きにある「大エビ・カキ・アジ・クリームコロッケ」と様子が違う。


大エビが、細エビであることに目をつむるとしても、店主のお目当てのカキフライが、薄い直方体を呈している。


この店のカキは、四角いのだろうか。試しに食してみると中から白いゴム状のものが。これは、イカだ。


もう一度、品書きを「イカ」ではなく「カキ」であることを確認し、教室で学生が質問をする如く、左手を垂直に挙げ、店員を呼ぶ。


薄笑いを口の端に浮かべた店員に、せこい申し出を恥じるように見せかけるのに苦心しながら、事情を説明する。


店員はカウンターへ向かうと、店主の異議を厨房内に伝えている。厨房内の数人の動きが止まり、店員と議論しているのが見える。原因の追及をしているのだろうか。


2、3分はかかったか、店員が戻ってくると「カキ、揚げてますから」と、なぜこういう事態になったか理由の説明なしに、厨房の現状のみを報告してくれる。


カキが運ばれてきたときには、ご飯もみそ汁もお新香も小鉢も食べ終わっていて、カキフライだけをボソボソとほおばることになった。揚げたてなので、口の中をやけどしながら。


一口、確認のためかじったまま、食べていいものか迷ったイカフライはそのままで、店を出てしまった。いまごろ、イカの嫌いな客だったと思われているのだろうか。