粗相

子どもは、ご近所で晩ごはん。用事も早めに終わったので、どうしようかと思っていると、かみさんから電話。「新宿にいるから飲もう」。


いそいそと新宿に向かう店主であった。


もう20年来のおつきあいのゴールデン街のお店で飲み(一年に一回しか来ないんだけど。ママ、ごめん)、もう一軒行こうかと。


ふと思いついて、駅地下の「B」という、知ってる人は知ってるお店に行くことに。


店内はいつも混み合っていて、イスに座れることはあまりない。座れない、あるいは必要もない客は、カウンターですーっとビールをひっかけたり、軽食をささっと食べる。


しかし、このときはちょうど2席確保でき、つまみやらワイングラスやらビールやらトレーに満載して席に向かったのであるが。うかつにもワイングラスを落っことしてしまったのである。


しかも、向かいの席のちょっと年上らしき女性の足元でグラスが割れ、おそそがはねてしまったのである。


その女性の怒らないことか。グラスで足を傷つけかねないことや店主の態度や、とにかく火のついたように店主の不始末をなじる、なじる。


店主もすっかり慌ててしまい、口も付けずに落としたワイン(一杯630円)のことも忘れて、平謝りに謝ったのであるが、怒る気配はおさまらない。様子を聞きつけ、グラスを片づけてくれた店員さんにも矛先を向け、店長を呼べ、保安員を呼べ、警察を呼べと怒り狂う。


悪いのは店主である。ああ、子どもの頃、母親になじられたことを思い出すなあ。などと思い、女性の小言(失礼)に相づちを打ちながら(「私のいうことに答えるな!」と、また怒られた)、なすすべもないので、追加注文したワインを飲んでいたのであった。


駆けつけた保安員3人は、相手にされず、結局、女性自らの通報でやってきた警察官4人と事情聴取のため、店主のことなど顧みず、店外へ出ていったのであるが。


その女性が出ていった後、周りのお客さんたちがくちぐちに「いつもはこんなことないんだけどね」「あの女性、変だよ」と言ってくれたので、少し安心したのだが。ああ。気をつけたいものである。