ポーランドの思い出

ポーランド文学の翻訳家、工藤幸雄さんが亡くなったのを新聞で知る。


店主が高校生の頃、隣の町に「ポーランド文化センター」(たしか)というのがあった。名前は立派なんだけど、私設で、学習塾の空き教室を使って、映画の上映会や、ポーランド語の学習会なんかをやっていた。


都内に出かけなくても、自転車でポーランド映画を観に行けるので、何度か通って、『灰とダイヤモンド』とか『夜行列車』とか『尼僧ヨアンナ』とか、わけも分からず観た。いつもお客は少なかった。


そんな上映会のゲストで、工藤さんが来ていたことがあった。ポーランド文学も少し読んでいたりして、お名前は存じ上げていたので、ドキドキしながら行ったが、やはりお客は少なかったな。


大きな身体だが、ひょうひょうとしていて、どこかとぼけているような話し方は、今も覚えている。


映画はワイダの『戦いのあとの風景』。冒頭に収容所から人々が解放されるところから始まるのだが、「やっぱりね、戦後だいぶ経って撮った映画だからね、収容所の人が太っているのね。ほんとは、収容所だから、みんなガリガリにやせてるはずなのよ。リアリズムのワイダにしては、ちょっと甘いね」。


何年か前に吉増剛造氏のイベントでもお見かけした。「もう年だけど、翻訳したいものがまだまだあって、死ねないね」なんて、吉増氏と話していた。


店主の若きころのポーランドかぶれの案内人でした。ご冥福をお祈りします。